きなこ闘病記

様子が変わったのは922日頃から。きなこはいつになくわがままな様子でいつもは立ち入り禁止にしている玄関方面の廊下へ行かせろと大騒ぎし始めました。フードに目もくれず騒ぐきなこは、いつもの好奇心から廊下に興味を持ってしまって夢中になるあまり食事を後回しにしているように見えました。

気をそらして食事させようと、さくらと一緒にササミを与えるとおいしそうにモグモグと食べました。
しばらくすると騒ぐのを止めて、いつものお気に入りスペースでスヤスヤと寝息を立てる。そんな風でした。

925日金曜日の朝、唾液を少し吐きました。食欲を確認する為ウェットフードを与えると汁だけ舐めて後は残してしまいました。同じくらいのタイミングで、さくらがいるテーブルにジャンプして、いつもどおり猫パンチで「シャー!」と威嚇されたきなこが後ろ足を滑らしてテーブルから落ちそうになりました。情けないことに私が始めて自覚した異変でした。




昼に病院を訪れて体重計に乗った瞬間、私も先生も目を疑いました。ほんの2ヶ月前のワクチン時に測定した体重から1キロも減っていました。貧血の症状もはっきり出ており、すぐに血液検査と全身を検査しました。

きなこの病名は腎不全でした。血液の数値は極度に悪く、ひどい貧血を起こしていて想像できないほどの気持ち悪さから食欲を失っていました。生きているのが不思議なくらいの状態で、きなこに残された時間は1~2日、いつ何が起こってもおかしくない状態と告げられ、入院ではなく、皮下輸液で水分補給と気持ち悪さを少しでも抑える注射をしてから、帰宅して暮らし慣れた、大好きなさくらのいる家に戻りました。



家に戻った後のきなこは出かけたときと打って変わって、弱弱しく小さい病気と闘う猫でした。1時間ごとに目に見えて弱って行き、できることが段々減っていきました。今週から急に行きたがっていた廊下のドアを開けるとすぐに腰を下ろしてしまい、大好きなササミもいつものドライフードにも一切興味を示しませんでした。闘病する姿を誰にも見せたくなかったから、今までお気に入りでもなんでもなかった廊下に急に出たくなったのでしょうか。

辛いであろうにきなこは横にならずに行儀よく香箱座りをして目を閉じて苦痛に耐えていました。数時間おきに思い出したようにスッと立ち上がってまっすぐトイレに向かいいつも使っているほうのトイレを選んでおしっこをして戻ってきてまた座ります。
いつものどんぶりに手を突っ込んで水を飲もうとしますが、うまく行かずどんぶりの水を床にぶちまけてしまいます。1mくらいの高さの台所のシンクにジャンプして蛇口から水を飲もうとしますが、シンクの中に座ったままこちらを見るだけです。

シリンジで水や大好きな麦茶、ヨーグルトの汁を口に含ませてあげると、できる限りこぼさないように頑張って飲んでいました。ごっくんする力がなくなった後は、工夫して上を向いてガラガラうがいをするような姿勢で自分で喉に数滴の水を流し込んでいました。

後ろ足がズルズル滑るくらい力が入らなくなってもなお、家の中のお気に入りスペースを一つ一つチェックして回りました。40センチくらいの棚の上、椅子の上、キャットタワーの箱にも自力でジャンプして入りました。ジャンプに失敗して床に落っこちるようになった後は私が乗せてあげてそこで寝ました。時々きなこの傍らに用意した私の布団にやってきてゆっくりゆっくり布団をモミモミフミフミしました。



926日土曜日の朝に再び動物病院で皮下輸液と注射をして帰宅し闘病の継続をを目指しましたが、きなこの衰弱はどんどん進みました。水を飲む、トイレに行く、ジャンプに失敗する度に床に倒れて20分くらい気を失うようになったかと思うとまた強い意志で立ち上がる繰り返しです。
土曜日夜頃になって、うっかりウトウトしてしまった私の横にいつの間にかやってきてどれくらいの時間かわからないけれどぼんやり佇んでいて最後のおしっこをお漏らししてしまい布団がびしょびしょになりました。





日付が変わって927日日曜日未明 さくらと、最期の場所に決めた部屋の隅で寝込んでしまったきなこにササミ、麦茶を用意しました。好きだった赤外線ヒーターをじんわり当ててあげて、寒くないようにしました。さくらはきなこの見える位置から少しだけ食べました。きなこは匂いを感じただけで最後に胃に残っていた水とヨーグルトの汁を吐いてしまいました。
このあたりの時間はさくらが遠目のテーブルから寝ながら見ていました。

午前300頃から呼吸も鼓動もゆっくりゆっくり小さくなっていき、せめて眠るように逝けたらと顔を支えて声を掛け続けました。


尻尾で返事をしていたのが、瞼の動きだけになり、呼吸の強弱だけになっていきました。
午前600頃、夜が明けるころになってもう本当にきなこに力が残っていない状態になってもなお、きなこは強い表情を前面に出して止まりかけた呼吸を4回も5回も再開しました。のんきなきなこが見せたことのない強い表情です。


午前830頃、外はすっかり朝になっていました。きなこがちょっと弱弱しい声で「キュー」と鳴いた後、恐ろしい最期の波が続けざまに襲って来ました。きなこはとっくに動けなくなった身体の力を搾り出して闘いました。私は抱きしめることしか出来ませんでした。乗り越えてもすぐもっと強い波が襲ってくるのをわかっていながらきなこは恐れずに乗り越えました。
そんな状態の時にきなこは、あのとぼけたような声で意思を持って

「にゃあ」

とはっきりと話しました。それは嫌だ、苦しいでも、助けてでもなく聞き間違いでもなんでもなく、隣の部屋で寝ていたきなこが起きてあくびをしながらやってきて、「あれ?」「おや?」とか「やあ」とか「ねえ」と言う時の優しい声でした。

私が「聞こえたよ、ありがとう。」という声が聞こえたか聞こえないかの数秒間、きなこは全身に残った最後の一滴の力まで悔いなく力強く出し尽くして旅立ちました。


微笑みを浮かべたきなこが座布団に横たえた後、時計は840を指していました。



きなこの強さは何処から来るのでしょう。

一番苦しいきなこは理不尽な恐ろしい苦しみをひとつ乗り越えても、またもっと次の苦しみがやってくることを知っていながら最後の最後まで力を出し続けました。
その姿は、決して見ていて辛いので早く楽に、というものではありませんでした。例え全身を病に冒されても、ただシンプルに生き方を貫くことで残した家族を安心させる誇り高い強さを持っているからこその優しさでした。

きなちゃん、ありがとう。

6 件のコメント:

  1. うう…きなこ君、最期までよく頑張りました!

    たにやんさんにとっても、思いもよらない突然のことだったのですね…
    みるくの場合はおばあちゃんで、闘病も長く、最期は力尽きて永眠しましたが、きなこ君はまだ若いから…
    でも、きなこ君の内から沸き起こる強さで、本当に立派な最期だったのだと思います

    さくらちゃん、最愛のきなこ君がいなくなってしまって、寂しいだろうな…
    これからは、たねちゃんと一緒にたにやんさん、さくらちゃんを守ってくださいね

    あらためて、きなこ君のご冥福を心よりお祈り申し上げます

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    1. しめじさん
      改めてきなこを生涯に渡って可愛がって頂きありがとうございました。
      本当に短かったけれど闘病のアドバイスにもとても勇気を貰いました。
      きなこも同じ病気と闘い、みるくちゃんに長生きではずいぶんかなわなかったけれど、最期まで自分でできることを諦めないで、自分らしい生き方を貫くことは立派に真似できたかなと思っています。
      寂しくなるけれど、きなこが居ない分のさくらのお世話をして、きなこが居なくなってしまったことよりも、7年7ヶ月与えてくれた笑いや癒しをその分思い出して忘れないでいようと思います。

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  2. きなちゃんへ
    最期まで本当にりっぱな王様でしたね。
    大好きです。
    これからもずっとわたしたちのヒーローで、もち王国の王様でいてください。
    きなちゃんは変わらず、明日も明後日もわたしたちといっしょです。

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    1. おねえタマさん
      ありがとうございます。
      今まで居て当たり前だったけれど居なくなってその存在の大きさに気付きます。
      いつも私たち人間やさくら、たねの様子に気を配って、でも時々ヘンなこだわりでみんなを振り回して笑わせてくれる、そんなきなこの生き方は、苦しい苦しい病気にも負けませんでした。
      もちファミリーのブログ、さくら、たねの存在、笑い、出会い、きなこが与えてくれたものは本当に数え切れません。それを大事にしながらこれからも歩いていこうと思います。

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  3. きなこちゃんは最期まできなこちゃんらしい猫生をまっとうしたのですね
    まるっこくてきれいな毛並みでよき父よき夫でもありましたね
    いまごろはたねちゃんとくっついているのでしょうか

    たにやんさんもどんなにおさみしいことでしょう
    さくらちゃんともどもご自愛くださいませ

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    1. けいさん
      ありがとうございます。
      突然のことで悲しみは消えませんが、旅立つ数日前までいままでどおりののんびり気楽な猫生を楽しみたかったのがきなこの選んだ生き方だったのかなと今は考えています。もちファミリーの家族猫たちだけでなく、周りの人間みんなにも癒しを与えてくれたきなこはパーフェクト猫でした。
      さくらも元気を取り戻してのんびり過ごしております。

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